■はじめに
昨年は、新型コロナウイルスとの厳しい戦いを余儀なくされた一年でした。足下では、国内の感染者数は落ち着きを見せておりますが、新たに報告されたオミクロン株が多くの国で確認されるなど、新型コロナウイルスとの戦いは続いています。コロナ禍で傷ついた事業者・国民の皆様への支援や、次なる危機への備えに万全を尽くさなければなりません。
しかし、春の来ない冬はありません。今こそ、新型コロナによる危機を乗り越えた先の新しい社会を見据え、着実に成長の種をまいていく必要があります。社会課題の解決のために企業と政府がともに大胆に投資し、イノベーションを促すことが、その鍵となります。米欧などでは既に、政府が一歩前に出て、こうした取組を大規模に支援する動きが強まっており、我が国においても積極的な対応が求められます。
また、2050年カーボンニュートラル、2030年度の新たな温室効果ガス排出削減目標の実現と安定的で安価なエネルギー供給の両立や、米中対立・自国優先主義などの国際秩序への懸念への対応、福島復興と東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策など、経済産業行政を取り巻く課題は山積しております。
こうした課題に対し、経済産業省として、一つ一つしっかりと政策を前に進めてまいります。
■コロナ禍で傷ついた事業者・国民への支援と次なる危機への備え
コロナ禍で傷ついた事業者・国民の皆様に対し、経済対策を最優先で届けます。新型コロナの影響を大きく受けている事業者の皆様が、春までの見通しを立てることができるよう支援する「事業復活支援金」を措置します。
また、政府系金融機関による実質無利子・無担保融資を年度末まで延長するとともに、コロナ禍による新たな事業環境への変化に対応しようとする取組などを、「事業再構築補助金」、「生産性革命推進事業」の拡充によるグリーン・デジタル投資の加速化や、伴走支援によって支えることで、中小企業の事業継続と成長を後押しします。
さらに、原油価格の高騰が、コロナ禍からの経済回復の重荷とならないよう、石油製品価格の時限的・緊急避難的な激変緩和措置を講じます。
次なる危機への備えとしては、将来の感染拡大時に迅速なワクチン製造を可能とするため、平時にはバイオ医薬品を製造しつつ、有事にはワクチン製造に転用できるデュアルユース設備の構築を支援します。この取組は、民の設備を有事には官の要請によって活用するという意味で、「新しい資本主義」の象徴的なプロジェクトとなるものです。
■新しい資本主義の実現
「新しい資本主義」の実現には、まずは、分配の原資となる力強い成長を実現することが必要です。経済産業省としても、グリーンやデジタル、経済安全保障などの社会課題に応じた積極的な政策対応の在り方について、「経済産業政策の新機軸」として形にしてまいります。
その第一歩として、米中対立の激化や新型コロナの影響で明らかになったサプライチェーン上の脆弱性に対処するため、重要な生産・技術基盤の強靱化等を通じて、我が国の自律性・技術優位性の確保を強力に進めます。特に、「産業の脳」とも言われる半導体について、国内製造拠点の整備や、次世代技術の開発等を盛り込んだ「半導体産業基盤緊急強化パッケージ」を打ち出し、他国に匹敵する大胆な支援を講じていきます。また、レジリエンスの確保等の観点から、データセンターの地域拠点整備を支援します。
「成長と分配の好循環」を実現するために、成長に応じた賃金を支払うことが重要です。「K字回復」の構図に配慮しつつも、自社の支払能力を踏まえた、最大限の賃上げが期待されます。その上で、給与を引き上げた企業を支援する賃上げ税制について、抜本的に強化します。
また、コロナ禍で苦しむ中小企業においても、原材料費、エネルギーコスト、労務費の上昇分などを適切に転嫁し、支払能力を確保できるよう、下請Gメンを倍増するとともに、「パートナーシップ構築宣言」の取組を強力に推進していきます。
■エネルギー・環境政策
昨年十月には、第六次エネルギー基本計画を閣議決定し、S+3Eを大前提に、二○五○年カーボンニュートラル、二○三○年度の新たな温室効果ガス排出削減目標の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示しました。
徹底した省エネルギー、再生可能エネルギーの最大限の導入、安全最優先での原子力発電の再稼働に取り組むとともに、非効率石炭火力のフェードアウトや、水素・アンモニア、CCUS等を活用した脱炭素型の火力への置き換えを進めるなど、エネルギー基本計画に基づき、全力を挙げてエネルギー政策を進めてまいります。
また、2050年カーボンニュートラルに向けては、2兆円のグリーンイノベーション基金による野心的な技術開発・社会実装に加えて、蓄電池の製造拠点整備などの設備投資や電気自動車等の普及を促進してまいります。
さらに、将来にわたって安定的で安価なエネルギー供給を確保し、更なる経済成長につなげることが重要です。供給側に加えて、産業など需要側の各分野でのエネルギー転換の方策を検討し、水素、アンモニア、原子力、蓄電池などの分野ごとに、新たな技術開発や将来の具体的な市場規模の見通しなどを示して企業投資を喚起する、クリーンエネルギー戦略を策定します。
■対外経済政策
自由貿易の旗手として、自由で公平なルールに基づく国際経済体制を主導してまいります。
具体的には、WTOやCPTPP、RCEPをはじめとする経済連携協定等を活用した自由で公正な経済秩序の構築、デジタル経済に関する国際的なルール作りの推進、企業の公平な国際競争を妨げる市場歪曲的措置への対応など、新たな国際秩序の形成に取り組みます。
同時に、米国、欧州、ASEAN等とは、質の高いインフラの整備や相互の投資促進、AETIを通じたエネルギートランジション支援などを実施しつつ、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、連携をより強化してまいります。
また、サプライチェーンにおける強制労働の排除は国際的な課題です。企業が公平な競争条件の下で人権尊重に積極的に取り組めるよう、各国の措置の予見可能性を高める国際協調の実現に向けて、日本として、リーダーシップを発揮してまいります。
■福島復興・廃炉・汚染水・処理水対策
そして、経済産業省の最重要課題は、福島復興と東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策です。
福島の復興は、一刻の遅滞も停滞も許されないという強い決意の下、確実かつ安全な廃炉の実施、ALPS処理水の安全性への理解醸成、帰還困難区域における避難指示の解除、解除区域における事業・なりわいの再建や新産業の創出、風評対策などに、全力で取り組んでまいります。
■結語
2025年には大阪・関西万博を迎えます。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、最新の技術だけでなく、その技術を活用した、様々な課題解決の具体的事例を集めて、世界中に発信していきます。日本の、そして、世界の課題解決につながる万博のレガシーを作ることができるよう、政府のみならず、自治体や経済界と一致団結して取り組んでまいります。
今年は、十干十二支の「壬寅(みずのえとら)」です。これは、「冬が厳しいほど春の芽吹きは生命力にあふれ、華々しく生まれること」を表しているそうです。春の来ない冬はありません。厳しい状況が続く中にあるからこそ、危機を乗り越えた先の未来がその分明るいものとなるよう、経済産業省の職員一丸となって、職務に邁進してまいります。
本年も、皆様のより一層の御理解と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
令和4年 元旦
経済産業大臣 萩生田 光一