具体的には、まず、オペレータの労働環境の改善、安全を確保するため、超大型油圧ショベルの遠隔操作システムを開発する。この遠隔操作システムには、実機にオペレータが搭乗した時と同等の作業性を確保するため、他の鉱山機械との衝突を回避するなど運転支援システムを組み込む。続いて、掘削・積込などの作業の一部を自動化し、遠隔オペレータ1人が複数の超大型油圧ショベルを運用できるシステムを開発する。段階的に開発を進め、最終的には自律運転機能を有する超大型油圧ショベルの開発をめざす。
いずれのシステムも超大型油圧ショベルEX-7シリーズに後付できる仕様とし、鉱山現場の顧客が保有する現行機を活用しながら、将来における鉱山現場の自律型オペレーションに対応できるようにする。
鉄鉱石や銅をはじめとする鉱物資源は、世界の産業活動を支えており、これらを採掘する鉱山現場は、24時間365日、安定した稼働が求められる。
一方、超大型油圧ショベルのオペレータは周辺機械との接触や車体の安定性などに留意しながら、効率よく鉱物資源の掘削と積込を行うため、複雑な操作を長時間にわたり繰り返す必要がある。超大型油圧ショベルの運用における安全性や生産性は、オペレータの技能や経験に大きく左右されるため、オペレータの技能に左右されない生産体制の構築とオペレータの作業負担の軽減は、鉱山現場での重要な課題の一つとなっている。
日立建機グループでは、1970年後半から鉱山機械事業に参入して以来、超大型油圧ショベルの高い信頼性と耐久性を強みとしてきた。一方、1992年の雲仙普賢岳の噴火災害復旧工事を契機に建設機械の遠隔操作技術を用いた無人化施工について技術開発を進め、2013年には、業界に先駆けてインターネット回線を介して、北海道・浦幌試験場にある油圧ショベルを、約800㎞離れた茨城県土浦市から遠隔で操作するなど、長距離から遠隔操作するための要素技術の開発を進めてきた。今回、超大型油圧ショベルの自律運転に向けて、顧客のニーズを反映した開発を進めるため、実際の鉱山現場における実証実験を開始することにした。
超大型油圧ショベルの自律運転は、単独での導入も可能であることに加え、大規模鉱山で多くの導入実績がある子会社のWenco International Mining Systems Ltd.(以下、ウェンコ社)の鉱山運行管理システム(FMS:Fleet Management System)との連携も可能。自律運転する超大型油圧ショベルがダンプトラックや他の機器と情報のやり取りをすることで高い安全性と生産性の両立をめざす。
■運転支援システム
実機にオペレータが搭乗した操作に比べて、遠隔操作では車体の周辺状況や車体の傾斜などを把握しにくいため、遠隔操作を行うオペレータの負担軽減を図る接触回避システムと車体安定度監視システムを実機に搭載して実証実験を行う。さらに、ウェンコ社がバケット内の鉱物の重さを計量するペイロード機能の開発を進め、同時に実証実験を行う予定。実証実験を通じて実際のお客さまのニーズを反映することで、超大型油圧ショベルの遠隔操作および運転支援の技術をさらに高める。これらの運転操作支援システムは、超大型油圧ショベルEX-7シリーズに後付でき、実機に搭乗して操作の安全性を高めるシステムとして2022年度中の商用化を予定している。
■ダンプトラック自律走行システム(Autonomous Haulage System:AHS)との連携
日立建機は、2009年からAHSに関する研究を始め、現在ではオーストラリアのホワイトヘイブン社のモールスクリーク石炭鉱山にて、リジッドダンプトラック6台が、24時間体制で自律走行を開始している。大規模な鉱山オペレーションにおいては、多種多量の有人・無人の車両が混在するため、運行管理に必要な無線通信を安定して制御する必要がある。日立建機のAHSは、ウェンコ社のFMS上で稼働しており、日立グループのさまざまな技術を活用し、最大100台規模の車両を管制可能な拡張性を持っていることが大きな特長。自律運転する超大型油圧ショベルが、ダンプトラックや他の機器と情報のやり取りをすることで、将来における鉱山現場の自律型オペレーションにおいても、高い安全性と生産性の両立をめざす。
日立建機グループは、これまでも、顧客の身近で頼りになるパートナーとして、社会課題を解決するソリューション「Reliable solutions」の実現に取り組んできた。今後も、世界中の鉱山業界の顧客に、ICT、IoTを活用した超大型油圧ショベルの長距離遠隔操作および自律運転をめざした開発を推進し、顧客の求める、より高い安全性と鉱山運営の生産性の向上に貢献していく。