経済産業省:2019年9月11日
WTO(世界貿易機関)上級委員会は、11日(ジュネーブ時間10日)、我が国の申立てに基づき、WTOで審理されてきた韓国による日本製空気圧伝送用バルブに対するアンチダンピング課税措置について、報告書を公表した。同報告書は我が国の主張を認め、韓国のアンチダンピング課税措置は、損害・因果関係の認定や手続の透明性に問題があり、WTOアンチダンピング協定に整合しないと判断し、韓国に対し措置の是正を勧告しました。
1.概要
我が国は、平成28(2016)年3月15日に、韓国による日本製空気圧伝送用バルブに対するアンチダンピング課税措置ついて、WTO紛争処理小委員会(パネル)設置要請を行い、同年7月4日にパネルが設置されました。
我が国は、韓国による当該措置について、損害・因果関係の認定や手続の透明性に問題があるとして、「千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定第六条の実施に関する協定(アンチダンピング協定)」に違反すると主張していました。
WTOは、平成30(2018)年4月12日にパネル報告書を公表し、韓国のアンチダンピング課税措置は、損害・因果関係の認定や手続の透明性に問題があり、アンチダンピング協定に整合しないとして、韓国に対し措置の是正を勧告しました。他方、一部論点についての我が国の主張は認められないか、パネルの付託事項の範囲外であるとして、判断されませんでした。
我が国及び韓国は、平成30(2018)年5月28日及び6月4日に、WTO上級委員会の判断を仰ぐべく、上訴の申立てを行いました。
2.上級委員会報告書の判断概要
(1)上級委員会は、下記の日本の主張を受け入れ、韓国によるアンチダンピング課税は以下の点でアンチダンピング協定に違反すると認定し、韓国に対して同国のとる措置をアンチダンピング協定に適合させるよう勧告しました。
①ダンピングによる損害を認定する前提として、日本製品の輸入が韓国産バルブの価格低下圧力をもたらしたのか、適切な説明がなく、アンチダンピング協定第3.1条及び第3.2条(ダンピング輸入による価格効果の立証)に違反する。
(ア)日本製バルブは韓国産より高価・高機能であり、そもそも両者の価格が比較可能かどうか、適切な説明がない。
(イ)韓国産より高価な日本製品の輸入が、元々安い韓国製品の価格にさらに低下圧力をもたらすことの説明が不十分。
②本件措置は、秘密情報の取扱いに不備があり、アンチダンピング協定第6.5条及び第6.5.1条に整合しない。
(2)また、上級委員会は、下記を含むその他の論点に関して、協定整合性の判断を回避したパネルの判断についても、日本の主張を認めて取り消しました。
①韓国が業界全体を調査せず、アンチダンピング調査を申請した二社のみのデータを「国内産業」と認定した点が、アンチダンピング協定第3.1条及び第4.1条に整合しないこと 等
3.今後の予定
上級委員会報告書は30日以内にWTO紛争解決機関会合(DSB)において正式に採択されます。
我が国は、韓国が本報告書の勧告を早期に履行し、WTO協定に整合しないと認定された本件措置を速やかに撤廃することを求めます。
仮に韓国が勧告を履行しない場合には、WTO協定が定める手続にのっとり、我が国はいわゆる対抗措置を発動することができます。
4.意義
本件は、韓国の恣意的なアンチダンピング措置の是正を勧告したのみならず、新興国等に多く見られる保護主義的な貿易救済措置の濫用がWTO協定上容認されないことを明確にした点で意義があります。また、パネルによる一部論点の判断回避は誤りであったと明言した点も、信頼性の高い紛争解決制度の維持・改善を主張する我が国の立場に即したものです。
5.参考
(1)空気圧伝送用バルブとは
圧縮空気を利用して空圧シリンダーなどを伸縮・旋回等させるために、圧縮空気の流れ具合を制御する部品(バルブ)を指します。半導体、自動車製造工場などの組立装置や搬送装置などに用いられる部品です。
(2)アンチダンピング課税とは
ある商品の輸出向け販売価格が国内向け販売価格よりも安く、その輸出によって輸入国内における競合する産業が損害を被っていることが正式な調査により明らかになった場合に、その商品に対して国内向け販売価格と輸出向け販売価格の差を上限とする関税を賦課することをいいます。
(3)本件対象製品の対韓輸出額について
空気圧伝送用バルブの我が国から韓国への輸出額は、年間約64億円であり、うち本件措置対象製品の輸出額は約40億円です(平成30年)。
詳細は→ ニュースリリース
*リリース内容から「ですます調」で表記しています。