㈱日立製作所は10月31日、鉄鋼プラントの鋼板を製造する冷間圧延機(*1)において、AI(*2)を活用し、リアルタイムな制御を実現する技術を開発したと発表した。
今回開発した技術は、AIの中でもディープラーニング(*3)を用いて独自に開発したもので、蓄積した膨大な鋼板の形状パターンや操業の実績データを機械に学習させることで、自動制御により形状(鋼板の波打ち)を補正し、鋼板の品質向上を実現する。同技術の導入により、熟練工の冷間圧延機の操作ノウハウをデジタル化し、制御を自動化することで、オペレーターの操作負担軽減と高品質で加工しやすい鋼板のエンドユーザーへの提供を両立することが可能となる。
従来、鋼板の製造において、鋼板の両端や中央部分が波打つ代表的な形状パターンがあり、こうした形状を補正するためには、機械による形状の自動認識・パターン制御とオペレーターの手動操作による微調整を組み合わせる必要があった。しかし、この方法では、手動操作による細かな微調整が必要となり、オペレーターの操作負担に加え、熟練度の差によって形状にばらつきが出るなどの課題があった。また、鋼板の形状にばらつきがあると、歩留まりの低下、鋼板の破断、装置の破損といったリスクにつながっていた。
このような背景のもと、今回日立は、ディープラーニングを用いた冷間圧延機の制御技術を開発した。この技術は、これまで蓄積してきた膨大な鋼板の形状パターンや操業の実績データをもとに、オペレーターによる手動操作と鋼板の形状実績の関係性をディープラーニングのネットワークに学習させ、そこから自動で最適な制御動作を導出し、冷間圧延機の制御へリアルタイムに適用するもの。
熟練工がもつ冷間圧延機の操作ノウハウをデジタル化することにより、これまでオペレーターの手動操作により実施していた制御を機械に学習させることができ、機械の手動操作が簡略化され、オペレーターの操作負担を軽減することができる。
また、膨大な蓄積データをもとに、鋼板の形状パターンと機械の制御のさまざまな関係性を学習することで、これまで見出せなかった新たな制御方法を機械が自動で習得することが可能となる。
なお、今回開発した技術には、AIを活用したリアルタイムな制御技術のほかに、日立が培ってきた独自の制御技術・ノウハウも活用している。具体的には、制御結果をフィードバックしてディープラーニングの学習効率・精度を高めていく仕組みや、制御分野で長年培ってきたノウハウにより、ディープラーニングによる異常値の出力を抑制する仕組みを備えている。
これにより、同技術を運用しながら制御性能を向上させることができ、誤った制御による鋼板の破断や装置の破損といった、プラントへの悪影響を防止することも可能となる。
同技術の開発にあたっては、北京首鋼㈱遷安製鉄所において、2017年8月より実機に同技術を適用する実証実験を開始し、同技術の有効性を確認することができた。日立は、2018年3月から同技術を活用した製品を鉄鋼プラント向けに提供していく予定。
今後、日立は、同技術を活用した制御システムの製品化を推進し、IoTプラットフォーム「Lumada」のソリューションコアとして、鉄鋼プラント向けをはじめ、他産業分野においての事業展開を検討していく。
*1 冷間圧延機:コイル(ロール)状の鋼板を常温で圧下して伸ばす設備。
*2 AI:Artificial Intelligence
*3 ディープラーニング:脳の神経細胞のメカニズムを取り入れたニューラルネットワークによる機械学習手法。